ヒト腎癌ではその腫瘍径や悪性度により一見治癒とみなされた患者でも術後5年後、更には10年後でも転移を起こす。特に血行性転移が主な原因であり血中に持続的に腫瘍細胞が存在していることが強く示唆される。今回の研究目的は、各腫瘍のVHL病遺伝子の変異に特異的なPCR primerを作成し、患者末梢血のDNAより2段階のPCR反応(nested PCR)を行うことで、腎癌細胞が末梢血に存在する事を証明することである。その結果を臨床診断に応用する方法を確立することを目指した。PCR反応は塩基配列特異的におこなわれるので、癌細胞が持つ遺伝子異常に特異的なVHL病遺伝子のPCR primerを設定すれば、末梢血中に少数存在する腎癌細胞が末梢血のDNA検体より判定できる。この方法が確立すれば、現在、腫瘍マーカーとして有効なものがない腎癌患者において、その90%を占める淡明細胞型腎癌患者の症例についてこの方法が腫瘍マーカーとして利用できる。 我々の上記の計画による検討の結果、ヒト腎癌の症例の40%で手術直後に血中よりVHL遺伝子異常が同定できた。即ち腎癌細胞が血中に存在する事が確定した。その時期は術直後から1ヶ月までの異なった時期であった。特に腎静脈内からは90%の症例で血中よりVHL遺伝子異常が同定できた。即ち、腎静脈内よりは殆どの症例でおそらく手術手技により腎癌細胞が血中に播種されていたことが明らかになった。現在、リンパ節、尿中に同様のVHL遺伝子異常を持つ細胞が同定できるかを検討中である。
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