ヒト腎癌では特に血行性転移が主な原因であり血中に持続的に腫瘍細胞が存在していることが強く示唆される。また、これらの群は腎癌の転移の危険因子を持つ群と予測される。本研究では、腎細胞癌のVHL病遺伝子の変異に特異的なPCR primerを作成し、患者末梢血のcDNAより2段階のPCR反応(nested RT-PCR)を行うことで、腎癌細胞が末梢血に存在する事を証明し臨床的に転移の可能性を持つ患者を選別することを目的とした。現在、腫瘍マーカーとして有効なものがない腎癌患者の90%を占める淡明細胞型腎癌の症例ではこの方法が転移の可能性を持つ患者を選別する腫瘍マーカーとして利用できる可能性がある。これを腎癌30症例で検討した。同様にリンパ節、尿中に同様のVHL遺伝子異常を持つ細胞が同定できるかを同様の方法で検討し、リンパ節転移や尿中の腫瘍マーカーとして応用可能かを検討した。その他の蛋白マーカーも免疫組織学的に検討を加えた。さらに分子生物学的な側面から各種蛋白の腫瘍マーカーになりえるかの基礎的な検討も行った。 我々の上記の計画による検討の結果、ヒト腎癌の症例で手術直後に40%以上という高率で血中より腎癌細胞が存在する事が確定した。一方、リンパ節、尿中では低頻度で腎癌細胞が検出された。これらについては今後の検討を要すると考えられた。その他の関連蛋白で免疫組織学的な検討では有意なものは発見できなかった。 我々の分子生物学的な方法は実際の転移が出現するまでに腎細胞癌の浸潤転移を予知する有効な手段と考えられた。
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