各種内分泌撹乱物質の生殖機能への影響を解析する方法の確立を目的に、体外受精系、胚培養系、trophoblast outgrowth assay系、胚移植系、母体投与系等を確立し成績を得た。最も重要な成果は内分泌撹乱物質の中でもビスフェノールAの胚発育への影響を解明した点である。ビスフェノールAの初期胚発育モデルへの添加で、2細胞期から8細胞期への胚広い濃度範囲(fMレベルから100μM)にわたり発育率は大きな影響を受けない。ところが2細胞期胚から胚盤胞への発育率では1-3nMでは促進効果が観察され、逆に100μMでは有意に低下した。BPAの胚盤胞発育への用量反応性をみると100μMの高濃度における抑制作用と1-3nMの低濃度域における促進作用に分けて考えることができる。高濃度における作用は従来の毒性量による用量反応性のある部分と考えることができる。これに対して、1-3nMの低濃度域については毒性量と異なり、用量反応性を認めず作用も毒性と逆反応であると判断できた。しかもこの濃度は、環境中に存在し、ヒトの血液や卵胞液で検出される濃度と大きな差異はない。またビスフェノールAとエストロゲンのレセプターレベルの拮抗剤であるタモキシフェンの同時添加は、2細胞期から8細胞期への胚発育にはなんら影響を与えなかった。ところが胚盤胞発育率への、1-3nMの促進効果および100μMの抑制効果ともにエストロゲンのレセプターレベルの拮抗剤であるタモキシフェンの同時添加でそれぞれの効果がキャンセルされた。胚にはERα、βともに発現することも明らかにされており、ビスフェノールAの作用はERを経由するものと推察される。さらに得られた胚盤胞を胚移植し、得られた新生仔の発育および生殖能を検討したところ、生後3週における体重で30%以上の有意な発育の促進が認められた。これより初期胚のビスフェノールAに対する感受性は高く、胚移植により得られた新生仔の発育がビスフェノールA曝露群で促進されることより、妊娠後期の曝露のみならず着床前の曝露もまた次世代の発育に影響を及ぼすことが示唆された。
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