胆道閉鎖症症例の手術時肝生検標本を用いてbcl-2遺伝子の発現を解析したところ、正常肝をコントロール群とした検討にて本症肝組織においてbcl-2遺伝子の発現がコントロール群と比較して低下していることが判明した。そこでbcl-2ノックアウトマウスによる肝病態の検討を試みた。 Bcl-2ノックアウトマウスは生存期間が短く充分な肝組織を得られないことから、われわれは本症に内臓錯位を合併することが多いことに注目し、内臓錯位および胆汁うっ滞を生じるinv変異マウスを用いた検討を行っている。さらに内臓逆位を合併する本症患児の血液サンプルを用いた検討を行い、本症におけるアポトーシス関連遺伝子ならびにinv遺伝子の意義を解析中である。またアポトーシスの異常によって肝内・肝外の胆管の連続性が失われることにより、肝全体に汎胆管炎が生じ、さらに胆汁うっ滞性の高度な炎症性変化がもたらされることによる悪循環が形成される。この過程で肝病態の進行に重要な役割を果たしている因子として、肝線維化関連の各種サイトカインやmast cell、c-kit、CD14などの意義が証明された。胎生期および出生直後の肝実質細胞と肝内胆管は旺盛な自己修復(新生・増生)能力を有しているのに対し、肝外胆管の障害は不可逆的なため、ここに想定された病態連鎖のいわば終末像として肝外胆管の瘢痕性閉塞、すなわち胆道閉鎖症の病理形態が完成するものと考えられる。
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