研究概要 |
本研究は癌治療を困難にしている最大の特性である癌浸潤をおとり遺伝子導入により抑制しようとするものである。我々はすでに癌細胞をEGFやTNFαなどのサイトカインで処理するとin vitro浸潤モデル下での細胞浸潤が著明に促進され、一方、一方デキサメタゾンで処理すると浸潤が著明に抑制されるという結果を得ている。さらに、これらの細胞の浸潤能の変化はマトリックスメタロプロテアーゼMMP-9やウロキナゼー型プラスミノーゲンアチベター(uPA)の産生、またuPA受容体(uPAR)の発現と極めて密に相関しており,またそれらの発現にはAP-1やNF-kBなどの転写因子によって調節されていることを示唆してきた。この様な実験事実からプロテアーゼなど癌細胞の浸潤に正に働くタンパク発現を転写レベルで阻害することにより,癌浸潤を抑制することが可能であると考えた。 おとり遺伝子とは転写因子プロモーター領域に結合する塩基配列を含んだ二本鎖合成オリゴヌクレオチド(20塩基対程度)のことであり,これをHVJ(Hemagglutinating virus of Japan)ウイルスベクターを用いて癌細胞に導入した。AP-1おとり遺伝子を導入した癌細胞はEGFによって促進されるuPAとuPARの発現を抑制した。NF-kBおとり遺伝子を導入した癌細胞はTNF-αによって促進されるMMP-9の発現を抑制した。しかしながら、両者の効果はデキサメタゾンの効果に比較すると弱く、癌細胞の浸潤に対する効果は得られなかった。一方、Sp-1おとり遺伝子を導入した癌細胞はサイトカインTNF-αによって促進される血管新生因子VEGF、TGF-β、組織因子、uPAの産生および癌浸潤を著明に抑制した。Sp-1でみられる癌浸潤抑制効果が、AP-1やNF-kBおとり遺伝子では弱いのかについて今後、検討する予定にしている。
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