研究概要 |
6週齢のウィスター系雄性ラット大臼歯に窩洞を形成後1週間の歯髄組織から得たmRNAを,窩洞形成を行わなかった側の大臼歯歯髄由来のmRNAと比較することによって,歯髄組織が修復象牙質を形成する際に発現する遺伝子群を捉えた。発現している遺伝子の比較は,遺伝子サブトラクション法を用いて行った。遺伝子クローニングによって,インサートを有するクローンを合計で72個得た。そのうち44個は窩洞形成側歯髄組織にmRNA量が増加する遺伝子であった。他方,28個は減少するものであった。500bp以上のサイズのインサートを持ち,解析可能であったそれぞれ5クローンずつについて,リバースノーザン法で各組織での発現を調べた。刺激歯髄組織で5クローン全てが発現し,対照歯髄組織では3クローンが発現していた。残り2クローンは刺激歯髄組織,対照歯髄組織のどちらにおいても発現がみられなかった。これらの遺伝子の塩基配列を解析した結果,歯髄組織が石灰化する際に発現するとこれまでに報告されていた遺伝子よりも,細胞外基質,接着分子,細胞骨格,そして転写制御因子を検出した。このことから,修復象牙質の形成には,いわゆるTGFβファミリーのような石灰化に関連するもの以外にも種々の遺伝子群の関与が必要であることがわかった。 一方,歯髄組織への外来遺伝子の導入について,ヒト歯髄線維芽細胞の培養系と歯髄組織の器官培養系において,レポーター遺伝子を組み込んだプラスミドDNAの直接導入法を確立した。遺伝子発現のコントロールはヒトelongation factor-1のプロモーターを用いて,高い発現率を目指した。しかし,細胞への導入効率は低いものであり,実際に応用するためにはさらなる改善が必要と思われる。特にadeno virus系の発現ベクターを利用することの検討を開始した。なお,窩洞から象牙細管を通過して色素を歯髄に導入することが可能であることを確認したので,今後はプラスミドDNA等を同様に導入することも検討する予定である。
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