研究概要 |
高齢社会への対応として,歯科では義歯の重要性が増加しているようである。しかしながら,身体的問題のみを考慮して義歯を作製すればよいわけではない。義歯の作製,使用に際しては,対象者自身の全てを考慮することが必要である。そのためには,対象者の身体的,行動学的,心理的,社会的側面を把握することが望ましいと考えられる。さらに,高齢者の生活環境は多様であり,義歯の製作使用に関してもその義歯装着者の生活環境も考慮しなければならないと考えられる。 本研究・調査においては,単科精神病院の痴呆病棟入院患者,(都市型)介護老人保健施設入所者を調査対象者とした。痴呆病棟入院患者では,口腔内状態は,現在歯数,残根歯数,喪失歯数,咬合支持,義歯装着状況,口腔ADL,口蓋粘膜からのカンジダの検出などを調査した。痴呆の程度は,改訂長谷川式簡易知能評価スケールで,日常生活動作能力はN式ADL(5項目の評価で行う)により評価した。(都市型)介護老人保健施設入所者では,口腔状態,口腔ADLを調査した。また,施設の看護師,介護職員に対してもアンケートを行い口腔ケアへの関心などを検討した。 本研究・調査により,施設の相違も含めて口腔状態と全身健康状態に関連があることが示唆された。さらに,痴呆患者に対する義歯の影響については明らかではなかったが,義歯を装着できた場合には,上口唇のサポートも得られ,重度の痴呆患者でも義歯の機能を有効に活用できていることが縦断調査より示唆された。また,義歯を装着することが,介護している看護師に仕事のやりがいなどの好影響を与えていた。高齢者で総義歯作製し装着することが必要な場合には,対象者の身体的,行動学的,心理的,社会的側面を考慮して,対象者を総合的に評価し判断することが大切であることが示唆された。
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