研究概要 |
変形性顎関節症(OA)における軟骨初期破壊とその病態進行のメカニズムを解明するために、生化学的手法を用い、以下の検討を行った。 平成11(1999)年度には、軟骨破壊に対する機械的負荷の影響を検討することを目的として、培養ウサギ関節軟骨細胞に機械的伸張力を負荷し、軟骨基質代謝ならびにMMPとTIMP遺伝子発現について検討を行った。その結果、過度の機械的伸張力により、軟骨細胞は形態変化を生ずると共に、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、II型コラーゲンなどの軟骨基質の産生低下を引き起こすことが明らかとなった。さらに,過度の機械的伸張力により、軟骨基質破壊に深く関与するMMP-1,-3,-9とIL-1βとTNF-αの遺伝子発現が亢進することが明らかになった。 以上の知見より、関節軟骨に作用する過度の機械的負荷は軟骨基質の産生低下と関節軟骨組織全体の脆弱化を引き起こし、さらにMMP、TIMP及びサイトカインの遺伝子発現を直接誘導することが明らかになった。また,軟骨基質内のMMP/TIMP比の不均衡により軟骨破壊が進行することが強く示唆された。 平成12(2000)年度ではOAに見られる関節液中のHA低分子化のメカニズムを解明することを目的として、HAの分子量を決定するHA合成酵素(HAS)の発現様式について検討を行った。その結果、正常滑膜および軟骨では高分子量HAを合成するHAS2が高発現しているのに対して、HAS3はIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインで誘導した場合に発現が高くなることが明らかになった。 以上のことから、炎症状態の関節においては合成段階でHAの低分子化が生じ、滑液の粘性低下や炎症亢進を引き起こすことが強く示唆された。
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