研究概要 |
我が国でも,肺炎は65歳以上の高齢者の死亡原因の第1位を占めている.このような高齢者における肺炎は一般の成人にもみられる肺炎とは異なる病態を示す.まず,高齢者の場合,嚥下反射,舌運動機能および咳反射が低下して,就寝中に口腔や咽頭に生息する細菌が唾液ともに肺に侵入する機会が増加する.さらに,正常人に比べて感染防御機能が低下している高齢者などでは,肺に存在する肺胞マクロファージの食菌能力が減退しているために,肺に到達した細菌が容易に増殖して誤嚥性肺炎の誘因となる.今回,我々はin vitroの実験系を応用して,A.actinomycetemcomitans感染させた肺胞マクロファージでアポトーシスが誘導されることを見い出した.肺における感染防御を担う細胞として,感染の初期では肺胞マクロファージが重要な役割を果たしているが,歯周病原性細菌であるA.actinomycetemcomitansが感染防御の前線で働く肺胞マクロファージを殺すという実験結果は,本菌と誤嚥性肺炎との関連を示唆するものとしてきわめて興味深いものであった.次のステップとして,我々は肺胞マクロファージの貪食・殺菌機能とアポトーシス発現との関連を調べた.まず.マクロファージの機能を亢進させることで知られているリポ多糖でマクロファージを前処理して,貪食・殺菌能とアポトーシス発現を調べたところ,リポ多糖で刺激したマクロファージは貪食・殺菌能が亢進して,アポトーシス発現は有意に抑えられることが明らかとなった.逆に,マクロファージの機能を抑制すると,アポトーシスの発現が強く認められるようになった.これらのことから,マクロファージの機能の強弱により,感染マクロファージのアポトーシス発現が変化することが明らかとなった.今後,マクロファージの機能を高める薬剤を開発することによる肺炎の予防への道を探っていくつもりである.
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