研究概要 |
本研究では海洋産環状デプシペプチドである細胞周期阻害活性GE3、アポトーシス誘起活性ポリオキシペプチン、抗HIV活性パプアミドの全合成研究を行うと共に同族体の合成を通して新しい作用機作を持つ抗癌剤、抗HIV剤の創製を目指している。GE3は協和発酵のグループにより放線菌から発見(1997)され、細胞周期のG1期からS期への進行を制御する転写制御因子E2Fを阻害し,強い抗細胞活性(IC50=1〜20nM)を示す。また,ポリオキシペプチンは梅沢らにより放線菌から単離(1998)された環状ヘキサペプチドで人すい臓癌細胞に作用してアポトーシスを誘起する。また、パプアミドはパプアニューギニア近海の海綿から単離され、強力な抗HIV活性を示す。海洋産の微量天然物であるため立体構造は一部不明のまま報告されている。これまでにGE3とポリオキシペプチンの両方に含まれる(S)-と(R)-ピペラジックアシッドと(2S,3S)-3-ヒドロキシロイシンの不斉合成法の開発とポリオキシペプチンに含まれる(2S,3R)-3-ヒドロキシ-3-メチルプロリンの短工程の合成法を開発した。(S)-と(R)-ピペラジックアシッドはキラルジエンとウラゾール誘導体のディールス-アルダー反応により立体選択的に合成する方法を見い出した。この方法は過剰のルイス酸により立体選択性が上がるものでこれ迄のキラルジエノフィルをルイス酸で活性化する方法と違い、新しい手法である。(2S,3S)-3-ヒドロキシロイシンはイソ酪酸無水物とイソシアノ酢酸エステルから得られるオキサゾール誘導体からアシルアミノ酸誘導体を得、これをキラルルテニウム触媒で不斉還元して、98%eeの高い立体選択性で合成することに成功した。また、(2S,3R)-3-ヒドロキシ-3-メチルプロリンはメチルビニルケトンとN-トシルグリシンエステルとの分子間マイケル反応、分子内アルドール縮合による連続反応で一挙に基本骨格をラセミ体として得た。パプアミドの合成ではジメチルグルタミンとβメトキシチロシン立体選択的合成法に成功した。これらを用いて環状構造を構築し、パプアミドの立体構造の解明を計画している。
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