研究概要 |
β-アミロイド(Aβ)の生成は前駆体タンパク質APPが細胞内分泌経路を通過してゆく途中で起こる(申請者らJ.Biol.Chem.273,6277-6284,1998)。申請者はAPPが家族性遺伝子変異を持たないにもかかわらず、異常な代謝を受けるのは、APPが正常な分泌経路に導入されず、誤った分泌経路に入り込むためであると考え、分泌経路選択のシグナル(R672AofAPP695)を同定した(J.Biol.Chem.273,19304-19310)。しかしながら、培養細胞においてはこのシグナルに変異を導入した遺伝子を発現させても、Aβ生成の前段階プロダクト(CTFβ)は蓄積が観察されるがAβの生成は増加しない。従って、平成11年度は、研究計画に従って、シグナルに変異を導入したAPP遺伝子からAβが正常APPに比較して多く生成されているかどうか検討した。正常APPとシグナル変異APPを安定的に発現している細胞にγ-セクリターゼを活性化するPresenilin(PS1)を安定的に発現させようとしたが、良い細胞株が得られなかったので、逆に正常PS1を安定的に発現する細胞株数種を先に作製し、これに正常APPとシグナル変異APP遺伝子を導入し、2種の遺伝子を安定的に発現する複数の細胞株を樹立した。シグナル変異APPとPS1を発現する細胞では、Aβ40およびAβ42の生成が20-30倍に増加した。このような増加は家族性変異以外ではいままで検出されていない。PS1の発現に伴い細胞内CTFβ量にも減少した。これはシグナルに変異を導入した結果細胞内に蓄積したCTFβがPS1によりAβに転換されたことを示唆する。平成11年度の結果は、遺伝し疾患以外の弧発性アルツハイマー病の病因を探る上で重要な知見を与えた。この結果を基に、シグナル変異APPトランスジェニックマウスを作製するコンストラクトの調製に着手した。また、通常一気に進むAPP->CTFβ->Aβの反応を一段階づつのステップで捕らえることが出来るスクリーニング系の開発が可能となる結果を得た。これは、薬剤がどちらのステップに効果を及ぼしたために最終的にAβの生成を抑制したのかを明らかに出来るスクリーニング系が開発できることを示している。
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