研究概要 |
アルツハイマー病の発病原因として、β-アミロイド(Aβ)の生成・分泌・凝集・細胞外蓄積が考えられている(アミロイド仮説)。Aβは、前駆体タンパク質APPから細胞内分泌経路で生成され、遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病では、全てAβの産生が上昇する。しかしながら、患者数の多い弧発性アルツハイマー病では、遺伝子変異を持たないがAβの産生が上昇することから、APPが正常な分泌経路に導入されず、誤った経路に入り込むためにAβの産生上昇が引き起こされると考えられている。我々は、APPの正常な代謝経路選択に必要なシグナルを同定し、シグナルの破壊は、Aβの代謝前駆体CTFβが細胞内に蓄積することを見いだしてきた(J.Biol.Chem.[1998]273,19304-19310)。H11年度は、CTFβを蓄積する細胞に野生型プレセニリン(PS1)を発現させると、CTFβがAβに変換されることを示した。これにより、APP→CTFβ→Aβの反応を一段階ずつとらえるA"生成システムを完成させることが出来た。現在、PSがCTFβからAβを生成するγ-セクリターゼであるかどうか議論が分かれているが、本研究はPS1がγ-セクリターゼである可能性を示唆しており、本システムが遺伝子変異がない場合のγ-セクリターゼ阻害薬のスクリーニング系に有用である事を示した。 さらに本年度は、新規β-アミロイド生成システムを解析中に、我々は、NF-κB/p65が凝集活性の高いAβ42の生成を特異的に上昇させる事を発見した。NF-κB/p50は効果がなかった。詳細な解析を行った結果、転写因子NF-κB/p65がκBモチーフを持つ下流の遺伝子を活性化するので、その遺伝子産物が、Aβ42の生成に必要なβ-もしくはγ-セクリターゼの活性化に必要であると考えられた。そこで、APPの正常な代謝経路選択に必要なシグナルを破壊し、Aβの代謝前駆体CTFβが蓄積する細胞にNF-κBを発現させた所、Aβ42の成は若干上昇した。NF-κB/p65の下流に存在する分子が、γ-セクリターゼ活性化に関与する可能性がある。
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