研究概要 |
2'-デオキシリボヌクレオシド4'位へアミノアルキル基の導入のための新規ラジカル反応を開発した.ヌクレオシド糖部4'位に炭素置換基を導入する方法は幾つか知られているが,4'α位に立体選択的に炭素置換基を導入する方法は,ほとんど知られていなかった.そこで,ラジカル環化反応を利用して立体選択的に炭素置換基を導入する方法を開発中に極めて興味深い反応を見い出した.本反応が,糖部4'ラジカルのビニルシリル基への5-エキソ環化の後,生成するメチルラジカルがさらに6-エンド環化体へ転位することが明らかになり,その生成機構の詳細について解明した.本法を適用して4'α-アミノエチルチミジンを合成した.さらに,アリルシリル基をラジカルアクセプターとして用いて4'α-アミノプロピルチミジンを合成した.既知の方法により4'α-アミノメチルチミジンを合成した.これらのヌクレオシドを含むオリゴデオキシリボヌクレオチド(ODN)を合成し,それらの熱的安定性,エキソヌクレアーゼ,エンドヌクレアーゼに対する抵抗性を調べた.さらに,相補鎖がRNase Hの基質になるかどうかを調べた.その結果,相補鎖がDNAの場合は,アミノアルキル体の数の増加に伴い熱的な安定性を増すことが明らかになったが,RNAの場合は熱的安定性の若干の低下が観察された.しかし,この低下はアンチセンス法への応用を妨げるほどではなかった.一方,これらのアミノアルキル基を導入したODNsは,予想通りエキソヌクレアーゼ(snake venom phosphodiesteraseおよびヒト血清),エンドヌクレアーゼ(DNase I)に対する抵抗性をかなり増すことが確認された.また,相補鎖側のRNAは,RNase H(HIVおよびHeLa細胞核抽出液)の基質になることも確認した.4'α-アミノエチルチミジンを複数個導入したODNsは,熱帯熱マラリア原虫のコハク酸脱水素酵素のアンチセンス分子として働くことを確認した.この実験によって,従来不明であった熱帯熱マラリア原虫のコハク酸脱水素酵素がミトコンドリア中のエネルギー代謝系で機能しており,本酵素が抗マラリア薬の開発のための標的候補として重要であることが明らかになった.
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