心臓は慢性的な付加がかかると代償的に肥大し、それが改善されない場合代償機構が破綻し、心不全へと移行する。心不全時には活性化された受容体のみをリン酸化しその受容体機能を減弱させる受容体キナーゼの発現量が増加していることが報告されている。そこで、受容体キナーゼの発現量の増加を抑制すると、心不全の発症が抑えられると報告されている。受容体キナーゼが増加してくるメカニズムを明らかにすることで、新たな心不全に対する薬物開発のターゲットを示すことができる。ラットの新生仔より心室筋細胞を単離し培養した。βアドレナリン受容体のアゴニストのイソプロテレノールで24時間刺激すると、受容体キナーゼの発現量が増加した。この増加は、αプロッカーでは抑制されずβブロッカーで完全に抑えられた。従って、心筋に存在しているβアドレナリン受容体サブタイプを介していることが示された。次に、細胞内シグナル伝達に関与する各種シグナリングタンパク質の阻害剤、活性化剤を作用させβ受容体刺激から受容体キナーゼ発現までの経路を明らかにすることを試みた。アデニル酸シクラーゼを活性化し細胞内のcAMPを増加させるフォルスコリンは、受容体キナーゼの発現を増加させた。extracellular signal-regulated kinase(ERK)の活性化を抑制するPD98059はイソプロテレノールによる増加を抑制した。しかし、p38MARKの阻害剤であるSB203580を処理すると、イソプロテレノールで刺激しなくても受容体キナーゼの発現は増加し、イソプロテレノールで刺激してもさらには増加しなかった。これは、p38MAPKが受容体キナーゼの発現を通常抑制していることを示唆している。これらの薬剤に対し、電位依存性L型カルシウムチャネルの活性化剤S(-)BayKは何ら受容体キナーゼの発現量に影響しなかった。
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