心臓に慢性的な付加をかけると、心臓は過剰な仕事に対して肥大し、さらにその付加が取り除かれないと心不全へと移行する。in vitroおよびin vivoで心肥大時のβ1アドレナリン受容体(β1受容体)を介したシグナル伝達に対する受容体キナーゼの関与を調べるために、詳細な解析が可能なin vitroのモデルで心肥大に至る経路を解析した。この目的のためにin vitroで一週間近く培養でき、かつ各種の心機能を保持しているラット新生仔心室筋を用いた。カテコラミン受容体やエンドセリン受容体を長期にわたって刺激すると、心肥大の指標である細胞骨格の再構築、タンパク合成の上昇や心房性ナトリウム因子(ANF)の発現亢進などが観察された。受容体からこれら最終応答までの分子レベルでの解析を行ったところ、3種のMAPキナーゼ(ERK、JNK、p38)ファミリーのうちERKとJNKが活性化された。受容体からJNK活性化までのメカニズムを調べると、(1)Gq共役型として分類されているにもかかわらず、Gqの活性化以外にG12/13も活性化されており、G12/13の活性化を抑制するとJNK活性化も阻害されたこと、(2)低分子量Gタンパク質rhoの活性化が必要なこと、(3)細胞外からのL型カルシウムチャネルを介したカルシウムの流入が必須なこと、(4)L型カルシウムチャネルの活性化にGqやG12/13が関与していることを初めて示した。これらの結果をふまえ、肥大時にはJNKの活性化が起きていること、したがってβ1受容体を介したシグナルとJNKの活性化間にクロストークがあることが推測された。今後、どのような変化がβ1受容体シグナルに起きているのかJNKの活性化と絡めて調べることが必要である。
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