医薬品に対する社会のニーズが多様化かつ高度化していく中で、その開発においても薬物の分子設計から最終的な製剤設計までを論理的かつ合理的に遂行することが強く意識されている。そのためには、膨大なデータを情報科学的に処理し、知識体系化することが必要である。本研究では、薬物のバイオアベイラビリティと深く関わる生体膜透過性に焦点を絞って、分子軌道法とニューラルネットワークを利用した動態予測法の開発を行った。まず、ヒト皮膚透過性が明らかにされている薬物に対して、分子軌道法により構造最適化を行い、構造記述子を計算した。その記述子と皮膚透過性との関係を重回帰分析およびニューラルネットワークによって解析した。その結果、皮膚透過性は双極子モーメント、分極率および原子電荷で説明でき、かつニューラルネットワークを用いることで遥かに精度の高い予測モデルが構築できた。この方法は、皮膚透過性に限らず、消化管膜のモデルであるCaco-2細胞での透過性にも適用可能であり、その応用性が高いことも証明された。また、皮膚を角質層とそれ以下の層の2層からなると捉えた二枚膜拡散モデルに基づいた解析を通じて、薬物の経皮吸収性が基剤の誘電率とよく相関することを見出し、普遍性の高い経皮吸収予測モデルを構築した。以上の研究成果は、これまで経験則に基づき膨大な時間と労力を払いながら進められてきた医薬品開発の合理化に大いなる貢献が期待される。
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