研究概要 |
病原性大腸菌の産生する治療薬としての応用を目指して、ベロ毒素の細胞内侵入を阻害する糖鎖受容体アナログの化学合成とその生化学的評価を行った。ベロ毒素が細胞内に侵入する際には、腸内細胞に多く発現しているGb3セラミドを認識結合することが知られている。そこで、Gb3の糖鎖部分α-Gal-1,4-β-Gal-1,4-β-Galとセラミド部分に化学修飾を加え、最も結合の強い化学修飾体を探索することとした。糖鎖部分はα-Gal、α-Gal-1,4-β-Gal、α-Gal-1,4-β-Gal-1,4-β-Galの3通り、セラミド部分にはL-トレオニンから由来するアミノジオール、6-ヘキサノラクトンとエチレンジアミンとの反応から得られるアミノアルコールとの2通りを合成し、これらの組合わせにより、計6通りの糖鎖受容体アナログを化学合成した。これら6種類の糖鎖受容体アナログのアミノ基にはさらにビオチンを結合させ、これらの細胞毒素への結合を表面プラズモン共鳴解析装置を用いて解析を行った。プリズム上に蒸着した金表面にストレプトアビジンを共有結合で固定化し、そこへビオチンラベル化体を結合させた。これら化学修飾糖鎖受容体とベロ毒素B鎖との結合の強さを評価するためにベロ毒素と同じ作用機構をもつ細胞毒素(abrin C)を用いて評価した。その結果、糖鎖部分にα-Gal、α-Gal-1,4-β-Galをもつ修飾体はあまり強い結合を観測することができなかったが、糖鎖α-Gal-1,4-β-Gal-1,4-β-GalにL-トレオニンから由来するアミノジオールを結合した修飾体(解離定数2.56x10^<-6>M)が、天然のGb3セラミド(解離定数1.05x10^<-7>M)に匹敵する強さで結合することがわかった。今後、セラミド部分の化学修飾体や糖鎖部分のさらなる最適化を行い、治療薬としての応用を計っていく予定である。
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