正常細胞との代謝の差違を利用した選択的治療の実施には、MTAP欠損の正確な診断が不可欠である。従来、MTAP酵素欠損の診断は、酵素活性を直接測定して行っていた。しかし、この方法は、市販されていない放射標識MTAを自前で製造しなければならない為、煩雑で研究室レベルの測定法であった。研究代表者により開発されたウエスターン・ブロット法は、原発肺癌組織での有用性が証明された。その後、研究代表者は、MTAP遺伝子の構造解析を行い、MTAP酵素欠損は遺伝子欠失に起因し、しかも常に3'末端の第8エクソンが消失していることを報告した。更に、MTAP偽遺伝子が3番染色体長腕に存在することを発見し、偽遺伝子をコントロールにしたpolymerase chain reaction(PCR)法による遺伝子診断が可能となった。平成11年度には、多くの検体を定量的に処理できるようにTaqman chemistryに基づくreal-time PCRを用いた遺伝子診断法を開発した。方法を簡略に述べると、MTAPエクソン8と偽遺伝子それぞれのPCR増幅部位に内部プローブ(Taqmanプローブ)を設計し、PCR反応を行う。各サイクル毎にTaqmanプローブから遊離した蛍光が励起されるので、PCR産物を定量的に測定できる。偽遺伝子からのPCR産物の量と比較して、遺伝子欠失の診断を行う。この方法を用いてAdult T-cell leukemia(ATL)患者検体を検討したところ、白血病細胞比率が30%の検体でも正確にホモ接合性欠失を診断できた。
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