ヒトの身体は、構造かつ機能的に関連を持った細胞が集まって組織、器官を形成して生命活動を営んでいる。細胞の微細構造を観察する組織化学的手法は、細胞を固定して顕微鏡を用いて観察する方法が主流である。しかし、細胞は固定された時点で「動く」機能を失う場合が多く、また元来立体構造を有して生命活動を営んでいる細胞の構造を平面的に観察する方法が一般的である。近年、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡(CLSM)の急速な発展に伴い、細胞機能を肉眼的にリアルタイムで観察する試みも報告されている。さらにこの技術を発展させ、観察した細胞を画像処理により立体構築し、リアルタイムで機能変化を観察する試みも報告されている。本研究では、骨格筋細胞の横行小管(T管)、筋小胞体(SR)、トライアド、ミトコンドリアなどの微細器官を画像処理により立体構築し、筋収縮に伴う構造変化を観察すると同時に、Ca^<2+>トランジェントなどの機能をリアルタイムで観察する試みを行った。トライアドは、筋細胞が収縮中している最中にZ線方向に可逆的に移動し、弛緩に伴いZ線から離れるという構造様式の変化が観察された。また、この変化は収縮張力の大きさと関係し、発揮張力が大きいほど移動距離が大きかった。カフェインやキニーネにより筋細胞を強縮させた際には、ミトコンドリア中のCa^<2+>濃度が一過性に上昇し、SR中のCa^<2+>濃度が低下したが、ミトコンドリアやSR自体の構造、形態的特性に変化は見られなかった。筋細胞内の微細器官は発育、運動、不活動などによって比較的容易にその構造及び筋細胞内での形態的特徴を変化させることが報告されている。これらの変化は、発育、運動、不活動などによって細胞内環境が変化し、それに伴いサイトカイン、IGF等の細胞内情報伝達機構が変化した結果生じた可能性が示唆された。
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