研究概要 |
本研究の目的は,学習能力を備えたウェーブレットフィルタを用いて,時系列信号や画像から,特定信号や特定画像を識別し抽出するための理論を構築することである。 本年度は,学習能力を備えた実数型リフティングウェーブレット変換や整数型リフティングウェーブレット変換に焦点を当て,信号や画像に対する識別理論を構築した。そして,構築した理論を実際の時系列信号や自然画像に適用しその有効性を確かめた。その結果,整数型リフティングウェーブレット変換の方が,実数型リフティングウェーブレット変換に比べて,頑健な識別ができることがわかった。実際に,整数型リフティングウェーブレット変換を用いると,地磁気水平成分から磁気嵐の前兆現象である磁気嵐急始部を高精度で識別し検出することができた。画像の場合は,特定の人物の顔画像を学習させるだけで他の人物の顔画像も識別でき抽出できることがわかった。また,時系列信号に含まれる異常信号をリアルタイムで検出するために,整数型Haarウェーブレット変換に基づいた異常信号検出装置を開発し特許出願した。 本年度はまた,ダイアディックウェーブレット変換を用いた画像からの特徴抽出の研究も行った。ダイアディックウェーブレット変換によって得られる高周波成分の間には,情報の重複は生じるものの,ダウンサンプリング型のウェーブレット変換で問題となる高周波成分の欠損は生じない。そのため,このような高周波成分から画像の特徴を表す輪郭を抽出したり,画像を鮮鋭化するのに都合がよい。本研究では,Bスプライン関数をもとに対称なダイアディックウェーブレットフィルタを新たに見出し,それを用いて医用画像の鮮鋭化を試み良好な結果を得た。
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