研究概要 |
1)遺伝子操作によるO-硫酸転移酵素活性の制御方法の開発:クローニングに成功した4種類のヘパランO-硫酸化酵素、HS2STとHS6ST-1,-2,-3のcDNAをもとに、これらの酵素の活性を、異なる3種類の方法、i)強制発現により上昇、ii)硫酸基ドナー、PAPSの結合部位アミノ酸置換により非活性の変異酵素の発現によるドミナントネガティブ効果により抑制、iii)アンチセンス発現により抑制、により制御の可能性をみた。培養細胞ではリポゾームによる遺伝子導入法を、組織や動物レベルでは、レトロウイルスによる遺伝子導入法を適応した。いずれの系においても遺伝子導入後の各酵素活性の上昇、また低下を観察した。しかし、細胞や組織の種類により効率と程度は大きく変動した。このような酵素活性の変動に対応する細胞が合成するヘパラン硫酸鎖構造の変化を検討した。微量で解析可能とするポストラベリング法を確立して解析し、有意な変動を確認した。ただ、数十倍の酵素活性の変動があってもわずかなヘパラン硫酸鎖構造の変化しか観察できない例もあった。目標とするヘパラン硫酸鎖構造の自在な人工改変には、他の要素、例えば、酵素の局在、糖鎖合成酵素とのバランスなどを考慮する必要があることが分かった。上記の4種類の酵素の詳細な基質特異性も加えて検討の必要性が出てきた。 VEGF,FGF-1,FGF-2,HGFなどの血管新生に関与する細胞増殖因子のヘパラン硫酸との結合には異なる構造が必要なことを明らかにし、遺伝子導入した細胞について細胞表面ヘパラン硫酸鎖への結合が糖鎖構造の変化にともなって変化することを確認し、FGF-2については、期待したように細胞の細胞増殖因子に対するレスポンスが影響を受けることを観察した。 2)ヘパラン硫酸鎖構造の改変による血管新生の人工制御のモデル実験系の確立:1)で開発した方法を適応して目標を達成するため、以下のような血管新生の人工制御を目指す解析モデル実験系を採用した。ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)やウシ大動脈血管内皮細胞(BAE)の培養系では細胞増殖への効果を、ラット大動脈から遊走する細胞による系では、増殖遊走活性を、さらにヒト細胞株(hMEC-1)のマトリゲル上培養系では管腔形成能への影響を観察し、既に上記の系の一部について遺伝子導入によってヘパラン硫酸鎖構造が変化することを確認した。
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