遺伝子発現の解析は今や生物学のあらゆる局面で不可欠であるが、このリアルタイムモニターが確実に応用できれるようになれば、これまでとは次元の異なった新たな展望が期待できる。我々はこれまでシアノバクテリアの遺伝子発現のリアルタイムモニターの経験から、この方法をより幅広い生命現象に応用するためには、多くの技術的問題を解決しなければならないことを痛感している。そこでこれらの問題を検討し、汎用性のある方法を開発するため、この計画を開始した。細胞内でのレポーター遺伝子の発現が発光として得られる過程で多くの影響をうけるが、この影響を相殺するためにコントロールとなるレポーター系の開発を試みた。これは注目すべき遺伝子と基準となる遺伝子に発光は長の異なるルシフェラーゼを同時に組み込み、その発光量の比をとることで、生細胞内での多くの影響を取り除こうとするものである。このため、最近クローニングされた鉄道虫の2つのルシフェラーゼ遺伝子を利用することにした。この生物の頭部と体側には異なった波長の発光を生じる遺伝子があり、基質や発光のメカニズムは共通である。すでに鉄道虫から630nmをピークとする赤色の光と540nmをピークとする緑色の光を出す2種類のルシフェラーゼがクローニングされている。それぞれのルシフェラーゼのピーク付近の光を通す干渉フィルターを用いることで、この2種類のルシフェラーゼの発光は分離できるはずである。本研究では一つの細胞で2種類のプロモーター活性を同時に測定できる2波長測定系の作製を試みた。シアノバクテリアの時計遺伝子kaiBCのプロモーターの下流に赤色ルシフェラーゼを、大腸菌由来のtrcのプロモーターの下流に緑色ルシフェラーゼをつないでシアノバクテリアに導入し、干渉フィルターを通し生物発光を連続的に測定した。その結果、干渉フィルターによって実際に二つの波長の光を分別して測定することができた。更にどちらのルシフェラーゼをつないだ場合も、今まで私達が概日遺伝子発現のモニターにもちいてきた発光細菌のルシフェラーゼ同様に約24時間周期の振動が検出できた。これらのことから、鉄道虫のルシフェラーゼを用いることにより、同一細胞における2種類の遺伝子発現を連続的に測定できることがわかった。この試みにより、細胞内での発光量に影響を与える因子を除くことが出来、リアルタイムモニターの確実性が飛躍的に高まると期待される。
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