神経細胞において、様々な神経栄養因子や神経伝達による脱分極等が、生存シグナルとして働くことがよく知られている。様々な神経死も、神経栄養因子の注入により部分的に抑制されることが報告されている。しかしながら、脳血管障壁のため、神経栄養因子を直接脳に投与することは難しい。我々は、神経栄養因子のような細胞外から働く分子ではなく、細胞内生存促進シグナル伝達について、その生存促進機構を検討している。小脳顆粒細胞の初代培養系において、種々の生存促進因子によって活性化される細胞内シグナル伝達分子を同定した。BNDF(脳由来神経栄養因子)、インスリン、IGF-1(インスリン様成長因子-1)、フォルスコリン、脱分極刺激等の生存促進刺激を加えた場合の、代表的な細胞内シグナル伝達分子の活性、リン酸化状態、分布など挙動を調べた。また、これらの分子の恒常的活性型あるいは優性阻害型の遺伝子発現ベクターを導入し、細胞の生存促進活性を検討した。以上の実験により、BDNF(脳由来神経栄養因子)による生存促進がclassicalMAPキナーゼとAktの両方の経路を介していることを明らかにした。また、細胞内cAMP濃度の上昇も様々な神経の生存を促進するが、これがprotein kinase A(PKA)を介在することを明らかにした。さらに、インスリンによる生存促進にはPI3キナーゼーAkt経路が必要であるが、MAPキナーゼ経路やPKAは必要ないことを示した。神経細胞において、AktとPKAは独立に生存促進に関与していることを示し、そのターゲットのひとつCaspase-9を同定した現在さらにこれらの分子が様々な虚血モデルで神経死を抑制できるかを検討中である。また、さらにこれらの分子による生存促進機構を明らかにしようとしている。これらの解析を通して、究極的には神経死を防ぐ機構を明らかにし、脳保護の手段の開発に結びつけたい。
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