我々は、無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成を支持する活性を、ES細胞自身が産生していることを見出し、これをKSRSと名付けて、当初発現ライブラリースクリーニングによるクローニングを試みたが、活性を示すクローンの同定には至らなかった。また、種々の既知サイトカイン・成長因子の効果も検討したが、明確にKSRS様活性を示すものは存在しなかった。しかし、このKSRS活性は血清中にも存在することに着目し、次に血清から無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成支持能を指標に分画を進め、最終的に逆相クロマトグラフィーで単一画分に活性を認めるに至った。現在、スケールアップの上、活性を担う蛋白の同定を進めている。 一方で、血清からの分画過程で得られた粗画分を用いて129系統由来EB3 ES細胞を無血清無フィーダー状態で約1週間培養し、その後ブラストシストインジェクションを行った。この結果キメラマウスが得られることは確認され、現在germline transmission能を検討している。また、同様の条件でC57BL6系統由来胚盤胞をフィーダー細胞存在下に無血清状態で培養し、ES細胞の樹立を試みたところ、約20%の胚盤胞からES細胞株を得ることに成功した。現在、これらの細胞の分化能を検討するとともに、培養皿をコートする基質を最適化して無フィーダー化することを試みている。 これらの解析と平行してES細胞の増殖を制御するシグナル伝達機構の解析も行った。特に、TGF-βファミリーの因子がES細胞の増殖に及ぼす影響を検討するために、抑制Smad蛋白をコードするSmad6とSmad7を発現ベクターに組み込んで、ES細胞に導入して過剰発現させた。この結果、Smad7の発現はES細胞の増殖を顕著に抑制した。この効果は、細胞のpluripotencyには影響を与えず、またSmad2の共発現によって解除されることから、ES細胞における生理的な役割を反映したものと考えられ、現在さらに詳細な検討を進めている。 以上の結果は、今後ヒトES細胞を再生医学に応用する上で、異種動物成分を排除した培養系を確立するための基礎研究として、今後さらに発展が期待できるものと考えている。
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