研究概要 |
人工臓器と臓器移植の間を埋めるべく,臓器再生やハイブリッド人工臓器を目指した研究が近年活発に行われている.組織が生体内で再生しやすい材料の開発は社会的に急務となっている.これまで,表面に情報伝達因子を固定化し,そこに細胞を培養することによって,生体適合性を高めた材料の開発を行ってきた.本研究では逆に,材料適合性の良い細胞を設計することを目的に,培養細胞の表面に情報伝達因子の受容体(レセプター)を発現させ,情報伝達因子を固定化した材料からの刺激が伝達されやすくするようなシステムを構築した.情報伝達分子として,上皮細胞成長因子(EGF)を選んだ.これに光反応性基を導入し,様々な材料に光固定化できるようにした.具体的には,まず,縮合剤として水溶性カルボジイミドを用い,EGFにアシドフェニル基を結合させた(アジドフェニル基は紫外光照射によって開裂し,ナイトレンを発生して有機物と結合する光反応性基の一種).次に,合成したEGF誘導体をポリスチレン基板の表面に塗布したのち,紫外光を照射してEGFを固定した.このとき,基板表面をフォトマスクで覆って,光がマスクを透過した領域のみで反応を起こさせ,EGFを選択的に固定できるようにした(光リソグラフ法).なお,固定化EGFの効果を明確にするため,フォトマスクに細胞スケールより大きいパターン(幅100μm程度)を用い,このパターンにしたがってEGFを固定化した基剤を作製した.細胞には,チャイニーズハムスター卵母細胞(CHO)を選んだ.EGFレセプター遺伝子をベクターに結合し,リポフェクチン法によりCHO細胞内に導入した.
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