1)遺伝子導入による細胞設計:エリスロポエチンの産生のためにチャイニーズ・ハムスター卵母(CHO)細胞にエリスロポエチン産生遺伝子を導入した上で、さらに固定化上皮成長因子(EGF)の効果を増幅するためにEGFレセプター遺伝子も導入した。二種類の遺伝子が導入されたことを確認した後、細胞培養を行ったところ、EGF固定化材料上で顕著な増殖速度が観測された。増殖速度の加速に伴い、エリスロポエチンの産生量も増加した。この関係は、線形で、特に相乗的な効果は見られなかったが、固定化EGF特有の増殖促進効果が観測され、有用性が示された。 2)生体分子固定化による材料設計:光反応性のEGF、ヘパリン、温度応答性構文氏を調製し、ポリスチレン基板上に塗布した後、数マイクロメートル幅のストライプの光透過領域の間隔を傾斜的に変化させた光マスクをのせ、紫外線を照射し、表面に傾斜パターンを形成させた。この基板上で細胞培養を行い、傾斜パターンに従った細胞の挙動を観測できた。 3)生体分子固定化材料の新しい可能性:溶解状態EGFは副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞の成長を促進するだけであるが、EGF固定化材料はPC12細胞の分化を促進することが明らかとなった。一般には神経成長因子(NGF)がPC12細胞を分化に誘導することが知られているが、固定化EGFは、それと同じ効果をもつようになった。これまでにEGFは、細胞内情報伝達タンパク質を短期間しか活性化しないのに対し、NGFは細胞内情報伝達タンパク質を長期間に亘り活性化することが知られている。以前の研究より、EGFは固定化により細胞内へ取り込まれにくくなり、長期間に亘り、細胞内情報伝達タンパク質を活性化することを明らかにしており、成長・分化のスイッチングは、この情報伝達タンパク質活性化時間の長短であると考えられた。
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