低出力超音波パルス刺激による骨形成の情報伝達経路解明とその応用的研究

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11558113
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 神奈川歯科大学
• 研究代表者: 高垣 裕子 神奈川歯科大学, 歯学部, 講師 (60050689)
• 研究分担者: 里吉 正徳 神奈川歯科大学, 歯学部, 助手 (90257303) ; 太田 知裕 帝人株式会社, 課長 ; 糸満 盛憲 北里大学, 医学部, 教授 (70104528)
• キーワード: 骨形成 / 超音波 / 運動負荷 / 機械的刺激 / 骨萎縮 / 骨 / 骨芽細胞 / 骨髄間質細胞

研究概要

低出力超音波パルス(Low Energy Pulsed Ultrasound 以下 US)は動物実験や臨床実験により、明らかな骨折治癒促進効果が報告されてきたが、その細胞レベルにおけるメカニズムには不明な点が多い。我々のグループではこれまで初代培養細胞に伸展刺激を加えてその骨形成作用を検討してきたが、本研究では、より簡便なマウス骨髄間質細胞由来の株化培養細胞ST2細胞を用い、非侵襲的にアナボリックな応答を誘導する機械的刺激としてのUSの有用性を検討した。また、COXII選択的阻害剤及びタンパク合成阻害剤存在下での実験により、刺激に対する応答のメカニズムについて検討した。ST2細胞を用い35mm径培養皿(6穴well)に播種(5×106 cell/plate)し、RPMI1640培養液(10% 牛胎児血清添加)で培養して24-48時間後USを照射した。USはEXOGEN社製低出力超音波パルス装置SAFHS2000を輸入販売元である帝人(株)が培養細胞用に改造したものを用い、wellの底面より20分間照射した。USは周波数1.5MHz、バースト幅200ms、繰り返し周期10kHz、出力30mW/cm2の設定で行った。20分間のUS照射後、24時間まで培養した細胞から順次total RNAを経時的に抽出し、RT-PCR法によりmRNAレベルでGAPDHを基準に増殖因子、骨基質タンパク等の発現について検討した。また、US照射10分前にタンパク合成阻害剤サイクロヘキサマイド、COXII選択的阻害剤NS398を加え、それらの影響に関して同様に評価した。結果は1)US照射により、例えば同じ増殖因子でも、IGF-Iのように変動するmRNAとTGF-bのように変動しないものが見い出された。2)典型的な初期応答遺伝子であるc-fos、cox-2以外にも、オステオカルシン、骨シアロプロテイン等の骨基質タンパクmRNAが、照射開始後1時間以内に一過性の発現レベルの上昇を示した。3)これらの一過性の応答は、タンパク合成阻害剤サイクロヘキサマイドの影響を受けなかった。4)2)以外に、12-24時間以降に顕著なmRNAレベルの上昇を示す骨タンパク質もあった。5)オステオポンチン等の24時間目でのmRNAレベルの上昇は、タンパク合成阻害剤サイクロヘキサマイドあるいはCOXIIの選択的阻害剤NS398の存在下には見られなかった。従って、1)US照射はST2細胞においてIGF-Iなどの増殖因子や骨基、質タンパクのmRNAの発現を誘導し、細胞を骨形成へと向かわせると考えられた。2)US照射開始後1時間以内に起こる一過性のmRNAレベルの上昇と12-24時間以降の上昇は、、それぞれタンパク合成を介さない一時的な初期応答と、新たなタンパク合成を必要とする、プロスタグランジンを介した二次的なアナボリックな応答であると考えられた。3)初代培養骨細胞の伸展刺激に対する応答とも共通したこれらの応答は、運動負荷が骨に及ぼす持続的な効果を良く説明する。即ち、低出力超音波パルスはマウス骨髄間質細胞由来のST2細胞に非侵襲的に機械的刺激として作用し、骨形成へと誘導すると考えられ、US照射に対してST2細胞が示す二段階の応答は、この機械的刺激が有用であることを示すばかりでなく、機械的刺激に対する骨の応答を研究するための実験系としての有為性も示している。

研究成果

• [文献書誌] Naruse, K. et. al.: "Mechanical stimulation of ST2 cells,mouse bone morrow-derived stromal cell done,by low intensity pulsed ultrasound"Biochem. Biophys. Res. Comm.. 268. 216-220 (2000)
• [文献書誌] Miyauchi, A. et. al.: "Parathyroid hormone activated volume sensitive calcium influx pathways in mechanically loaded osteocytes"J. Biol. Chem.. 275. 3335-3342 (2000)
• [文献書誌] Duarte, W. R. et. al.: "Effects of mechanical stress on the expression of S100A4 and cytoskeletal components mRNAs by PDL cells"J. Medical Dental Sciences. 46. 117-122 (1999)
• [文献書誌] Sekiya, H. et. al.: "Mechanical response, either upregulation or downregulation of bone protein messages, is always synergistically affected by PTH in human osteocytes."Biochem. Biophys. Res. Comm.. 264. 719-723 (1999)
• [文献書誌] Mikuni-Takagaki, Y.: "Mechanical response and signal transduction pathways in stretched osteocytes."J. Bone Miner. Metab.. 17. 57-60 (1999)
• [文献書誌] 高垣 裕子: "最新骨粗鬆症-病態・診断・治療・予防-"ライフサイエンス出版. 640 (1999)