本研究は最近明らかにされた新規神経ペプチドを介する中枢情報伝達に着目し、ノシセプチン受容体拮抗作用を有する薬物を見い出し、その鎮痛作用や記憶学習改善効果の検証、それを利用してノシセプチンの生理機能をさらに明らかにすることを目的としている。 高い選択性でノシセプチン受容体拮抗作用を有する薬物J-113397及びノシセプチン受容体欠損マウスを利用して遂行された個体レベルの薬理学的実験系で、ノシセプチン情報伝達は疼痛調節や記憶学習調節以外にも様々な個体機能調節に関与することが見い出された。このことは、ノシセプチン情報伝達の遮断薬が単純に鎮痛薬や記憶学習改善薬として有効ではないことを示唆した(論文準備中)。一方、ノシセプチン前駆体蛋白と受容体の詳細な脳内神経細胞レベルでの分布(宝谷ら)、モルヒネ耐性や依存の形成時に脊髄神経細胞でのノシセプチン受容体の発現誘導が起こること(植田ら)が論文発表された。また、ノシセプチン受容体欠損マウスで観察される長期増強の亢進は、海馬領域のCA1錐体細胞の異常に起因するものではなく、介在神経の調節異常が原因であることも示されつつある。
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