研究概要 |
Bub(1997)は,量子力学諸解釈が「特定オブザーバブル(preferred observable)」の選択として特徴づけられることを示した.しかし,彼の研究では,ヒルベルト空間が(可算)無限次元となる場合に生じるσ加法性に関係する問題が十分考察されていない.すなわち,この場合に生じるσ選言,σ完備2値準同形写像,σ加法的確率測度に対する考察が抜け落ちている. 本年度の研究においては,特に,連続スペクトルをもつオブザーバブル観測命題に関する問題が考察され,観測命題の真偽が確定するという意味での確定的世界(「真偽確定世界」)物理量の値が確定するという意味での確定的世界「値確定世界」),観測命題についての量子的確率を古典的確率とする表現(「古典的確率としての表現」),これら3者の間の関係が研究された.それにより,連続スペクトルをもつオブザーバブルの観測命題については,σ完備な真偽確定世界は存在し得ないことが導がれた.これは,連続スペクトルをもつオブザーバブルの観測命題がなすブール束が必然的にω矛盾することを,意味する.一方,量子的確率はσ加法的であるから,その古典的確率による表現もσ加法でなければならない.したがって,古典的確率による表現を成立させるためには,観測命題をσ完備2値準同形が定義できる命題の束に置き換えることが要請される.この要請から,観測命題を実数のボレル集合と見なすことが導かれ,値確定世界と,古典的確率としての表現の両立することが結論された.この観点から,Bohmの確定的解釈を見直すことが試みられた. Bub,Jeffrey-Interpreting the Quantum World Cambridge University Press,1997.
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