研究概要 |
量子力学は,その創出の頃より,それが扱う対象世界の描像をどのように与えればいいのかについての論争を伴っていた.最も有名な例はEinstein-Bohr論争である.この論争は現在でも決着の段階にいたらず,多くの解釈が試みられている.本研究は,これら諸解釈を吟味することによって,実在主義的な描像を探ろうとするものである.Bub(1997)^*は,量子力学の諸解釈が「特定オブザーバブル(preferred observable)」の選択として特徴づけられることを示し,量子力学的確率は,特定部分ブール束の真理値付値集合上の古典的確率として解釈できると主張した.このように量子力学的確率を古典的確率として解釈できるという主張は,CliftonやDicksonも共有している.しかし,本研究で明らかにしたように,(可算)無限次元ヒルベルト空間の場合には,σ加法性に関係する特有の状況が現われてくる.量子力学的確率も古典的確率もσ加法的であり,ヒルベルト空間の部分空間からなる束は(σ)完備である.したがって,σ加法性とσ完備性をどのように解釈に取り入れるかは,重要な問題である. 本研究では,命題の真偽が確定するという意味での確定性,物理量の値が確定するという意味での確定性,および古典的確率としての解釈可能性という3者の両立可能性を,σ加法性とσ完備性と関係させて調べ,連続スペクトルをもつ物理量の観測命題の真偽がω矛盾することを指摘し,観測命題の置き換えが必要になるという結論を導いた. これらの結果は,実在主義にとって必ずしも好都合ではなく,場の量子論をも視野に入れた実在主義の研究が今後の課題である. ^*Bub,J.(1997)-Interpreting the Quantum World.Cambridge University Press.
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