研究概要 |
「共同体から見たアリストテレス『政治学』の研究」という題目のもの,われわれ研究代表者・藤澤郁夫および研究分担者・斉藤和也は,平成12年度の研究を以下のとおりすすめた。 (1)引き続き『政治学』関係の文献調査・収集のため,藤澤は東京大学を中心に,斉藤は北海道大学を中心に作業を進めた。 (2)藤澤は,共同体論の考察をヨーロッパ近代の思想家ロックの思想を参照項として,政治社会の基本原理を確認した。この確認は以下の項目を含む。(イ)政治権力とはなにか。(ロ)政治権力の本源。(ハ)自愛の闇。(ニ)共同体の根源的分節。以上を要するに,ロックの描く政治社会は,理性原理としての義務の体系と,生の諸々の欲求を自己主張する自愛の原理とを,それらが人間の救済となるべく調和させ統合させることを課題とする社会である。 (3)斉藤は,『政治学』第1巻第2章で証明が試みられたポリスの自然本来性のテーゼをめぐる,KeytとMillerの論争を引き続き検討しつつ,さらに,この問題に関連するポリスにおける正しさとしての「自然の本性による正しさ」の研究に向かった。この研究は,アリストテレスの自然法をいかに解釈するかという問題に連動し,自然法の普遍性とその変動性(たとえば歴史主義的解釈をとるStrauss,Aubenqueなどは,この変動性を実定法を多様性において活気づける内在的規範であり,自然法を文化相対的にする原理と解する)を同時に満たすような自然法解釈が必要であるという結論に達した。
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