本研究は「共同体論から見たアリストテレス『政治学』の研究」なる研究課題のもと、研究代表者・藤澤郁夫と研究分担者・斉藤和也によって平成11年から平成13年までの3年間にわたって行われた。 その間藤澤は、まずアリストテレスにおいて、『倫理学』がポリス共同体の政治理論である『政治学』へと学問研究が進んでいく内在的論理をたどった。また研究は、共同体の基礎研究として、ロックの『統治論』に向かい、政治的権力とは何か、政治的権力の本源等を明らかにした。さらに近年米国において、コミュニタリアニズムに加担する生命倫理の研究動向が見られるので、本研究課題との関連で、ジョン・ハードウイッグの「死ぬ義務」を論じた。それは、病人中心の倫理から家族中心の生命倫理への転換と愛とケアの関係の網を義務の中心にすえることを提案する議論である。換言すれば、それは共同体への関与を強調することによって自己決定権を規制する方向である。 いっぽう斉藤は、アリストテレスにおける友愛や自知およびファンタシアー概念を研究してきたが、本研究においては『政治学』第1巻を中心とした人間本性論について研究を進め、『政治学』第1巻第2章において証明されている三つの基本テーゼについての従来の議論を整理して、主として、共同体と市民の道徳的完成の内在的連関の問題として研究成果報告を行った。
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