4年計画の最終年度の今年度は、これまで進めてきた研究を継続、綜括しながら、さらに新たな研究への視殖を得ることをめざした。 1.十七世紀合理論哲学をテーマにした日仏哲学会春季シンポジウム(「合理主義と真理」)で、スピノザの専門家としての立場から上記テーマについて発表を行なった。真理をめぐるスピノザの思索を、未完の『知性改善論』から『短論文』、『エチカ』へと追って、その哲学の形成過程について洞察を得、『短論文』と『エチカ』の内容の継承と相違についても知見を深めることができた(口頭発表にそくした別掲の論稿として印刷予定)。 2.上記と密接するテーマで、ユトレヒト大学のテオ・ファベイク教授が9月に行なった来日講演(スピノザ協会主催)ではコメンテーターをつとめ、特に『知性改善論』の真理論に的を絞った議論を通して、スピノザと真理の問題で、新たな視野をもつことができた(コメントの内容はやはり別掲のように印刷予定)。『短論文』との関連も含めて、『知性改善論』という未完作品の意義の解明が今後の研究課題とされることが明らかになってきた。 3.このほか、『短論文』のテクストの写本マイクロフィルムをも参照しながらの校合と諸国語訳、注釈の比較検討、研究史の把握と諸解釈の批判的整理という、これまで行なってきた基礎的な研究を継続して行なった。 今後の研究の見通しとしては、まず、昨年度の科学研究費補助金により外国出張して研究のレビューを受けた『短論文』の権威フィリッポ・ミニーニ教授のもとに、今年度末から文部科学省長期在外研究員として再び赴き、この研究課題を完成に近づけることをめざしている。また、「真理」を主題にして、スピノザの哲学形成と思索の意義を明らかにし、著書にまとめることを計画している。最後に、これまでの研究成果を反映させて、『短論文』の翻訳を完成させることを目標にしている。
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