研究概要 |
本年度は,本研究において,全体として計画された『エウデモス』『プロトレプティコス』『哲学について』等の初期アリストテレスの著作と見られるもののうちでも主要なものを中心に,初期アリストテレスの思想の全体像を再構成するための基礎となる,個々の断片が表す思想の解明を第一とし,それと関連して,第二に,中期・後期著作の思想との比較のための基礎作業として,昨年度行なった,論証・論理に関する著作に次いで,アリストテレスのディアレクティケー(問答法)と『形而上学』における哲学史的記述の関連を解明する研究を行なった. 第一の研究成果としては,初期アリストテレスの思想を伝える断片として採用されている後代の証言の中でも信憑性が高いと思われるシプリキオスのものから,『祈りについて』に関する断片を取りあげ,同じく,後代の証言として,従来,その多くが採用されているキケロによる『哲学について』の断片との比較を行なった.比較する主要な概念は,「テオス(神)」の概念であるが,「テオス(神)」を「ヌース(知性)」との関連で捉えるシンプリキオスの証言には,同じく,「神」の概念を「知性」以外のものとも捉える可能性を示唆した,キケロの証言ほどの混乱はないことが明らかになった(「『祈りについて』における神と知性-初期アリストテレス対話篇再構成の問題」,広島大学文学部紀要第60巻(2000)普通号所収.pp.43-52). 第二の研究成果としては,アリストテレスの哲学史的記述は,最初期の哲学者に関して,必ずしも通説通りではないことを明らかにした(「問答と探究としての哲学史-アリストテレスにおけるディアレクティケーの観点から」,渡邊二郎監修・哲学史研究会編『西洋哲学史の再構築に向けて』昭和堂(2000)所収.pp.54-65). なお,アルニキンディーのアラブ語文献による証言については,分析中である.
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