11年度は「歴史としての現象学」という理念をめぐる問題を中心に研究した。つまり「哲学史と対応する一つの歴史としての現象学」である。感覚的確信から理性までが、パルメニデスに始まる哲学史に対応する一つの歴史として構想されていることを、各章ごとに確認した。つまり感覚的確信(パルメニデスからヘラクレイトスヘ)―知覚(レウキッポスの原子論)一悟性(プラトン『ソピステス』)。さらに自己意識のA「自己意識の自立性と非自立性、主と奴」はアリストテレス哲学(『デ・アニマ』と『政治学』)を背景にしている。B「自己意識の白由、ストア主義と懐疑主義と不幸な意識」は、へ一ゲル『哲学史講義における「独断論と懐疑主義」と「新プラトン主義」に対応し、ローマ時代と中性を含む。そして理性の章は近代哲学の課題(存在と思惟の宥和=イデアリスムス)を展開する。そして理性から絶対知(イデアリスムスの頂点としてのへ一ゲル哲学)に移行する。そして理性の章の後に続く精神と宗教の章が、自己意識と理性の章の繰り返しにすぎないことをも証明できた。こうした作業によって、原現象学が「感覚的確信―知覚一悟性一自己意識一理性一絶対知」という六章構成であることが明らかとなった。 さらに『精神現象学』の成立史を検討し、原現象学(『意識の経験の学』)が、印刷が開始される1806年2月の時点で完成していたことを残された資料によって確定した。そして出版のトラブルを解決するために、理性と絶対知の間に、最初の構想にはなかった精神と宗教を書き加えたことを明らかにした。この成果として論文「三枚重ねの透かし織り一現象学の理念」を書いた。
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