昨年度は「歴史としての現象学」という理念をめぐる問題を扱った。平成12年度は「体系の第一部」という理念に定位した考察を行った。体系の第一部という言葉は、『現象学』を書き始めた時に構想されていた体系(現象学体系)の存在を示している。現象学体系を明らかにするために、まず現象学と論理学との体系的対応を解明した。それによって判明したのは、原現象学が「感覚的確信-知覚-悟性-理性-絶対知」という六章構成であった、ということである。このことはさらに現象学体系に含まれる実在哲学(自然哲学と精神哲学)との対応によっても確かめられた。現象学体系は「現象学-論理学-実在哲学」の三部構成であり、それぞれが三一三構造において体系的に対応している。 次に現象学体系がエンチクロペディー体系へ変容する過程を、『論理学』と『エンチクロペディー』に定位して、追跡した。この体系変容の基底にあるのは、論理学の変容、つまり「客観的論理学-主観的論理学」の二部構成が「存在-本質-概念」の三部構成へと変容することである。それによって自然哲学と精神哲学は独立し、「論理学-自然哲学-精神哲学」の三部構成としてのエンチクロペディー体系が成立した。 しかしこの変容を貫くのは、「体系的対応によって成り立つ体系」というヘーゲル独自の体系思想にある。12年度の研究は、ヘーゲル哲学を全体として捉える新たな視点を得ることになった。こうした成果に基づいて13年度は、『現象学』を論理学への導入部として考察したい。
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