「哲学史と対応する歴史」(平成11年度)、「体系の第一部」(平成12年度)、「論理学への導入部」(13年度)という理念に定位して考察したが、平成14年度は以上の成果に基づいてヘーゲルの体系の原理(精神の放棄)の背景に、アリストテレス『デ・アニマ』における「能動理性-受動理性」のヘーゲル独自の解釈(能動理性は自己を受動理性にする)があることを示した。現象学の経験概念(意識の経験の学)はこの解釈に基づいている。「能動理性=神的理性」が論理学の次元をなしている。さらに思弁哲学(論理学)と実在哲学(自然哲学・精神哲学)との二区分は、「能動理性-受動理性」に対応する。つまり現象学体系(現象学-論理学-実在哲学)の構想が「能動理性-受動理性」解釈によって可能となったことを証明した。ヘーゲル哲学の基本的姿勢が、ギリシア哲学に定位して近代哲学と対決することにあることを、さらにプラトンの想起説、アナクサゴラスのヌースに即して示した。ヘーゲル哲学の解釈空間を近代哲学からギリシア哲学へと解放することが課題である。その視点から改めてヘーゲル哲学を全体として捉え返し、11年度からの成果をまとめた。その成果は『ヘーゲル現象学の理念』(創文社、平成14年)と科研成果報告書として書かれた。
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