研究の目的はヘーゲル『精神現象学』を三つの基本性格(歴史、体系の第一部、導入部)に即して明らかにすることである。 歴史としての現象学はパルメニデスからヘーゲルに至る哲学史との対応として構想された。つまり「感性的確信-パルメニデスからヘラクレイトスへ」「知覚-レウキッポスの原子論」「悟性-プラトン」「自己意識A-アリストテレス」「自己意識B-独断論、懐疑主義、新プラトン主義」「理性-近代哲学」「絶対知-ヘーゲル」。体系の第一部としての現象学は論理学と体系的に対応している。つまり現象学は三-三構造として論理学の客観的論理学と主観的論理学と対応している。「感性的確信-知覚-悟性」-「自己意識-理性-絶対知」。現象学体系は「現象学-論理学-実在哲学(自然哲学と精神哲学)」である。ヘーゲル哲学は「体系的対応によって成り立つ体系」である。導入部としての現象学は体系への導入部でなく、論理学への導入部である。理性の章において論理学の次元に達し、そのことを認識するのが絶対知である。現象学の最初の構想は理性から絶対知へ移行することになっていた。精神と宗教の章は出版のトラブルを解決するために、書き加えられたのである。 現象学の展開を支配しているのは、近代哲学でなく、ギリシア哲学、特にアリストテレス哲学である。アリストテレス『デ・アニマ』の能動理性-受動理性の独自の解釈が現象学体系を可能にしたのである。
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