本研究は、平成11・12年度に行った行為文分析を扱う論理体系の基本調査、ならびに行為に関する因果的言明の推論の詳細な分析をもとに、13年度では因果的言明の標準型と言われているDavidson型分析の不十分さを指摘し、その分析方法では困難であった副詞消去推論を自然な形で行う方法を検討した。12年度までの研究でとくに問題であったのは、「因果的言明からの副詞消去が自然にできない」ということである。 その原因は、(1)行為について記述した文の個別化のレベルが考慮に入れられていないこと、(2)行為文が十分な形で記述されていないこと、の二点である。(1)の個別化レベルを明らかにするため、具体的な行為文を材料に、個別化レベルを明確にしたダイアグラムを書くという作業を行った結果、次のことが明らかになった。 (1)副詞消去推論は副詞を消去しているのではなく、消去されたように見える副詞は行為内容をより一般的に限定する記述に置き換えられている。 (2)因果言明の場合、原因となる行為と結果となる行為が一定の条件を満たしていることによって因果関係が成立しているため、その条件が一般化されると因果関係は成立しなくなる。 (3)因果言明における副詞消去推論を自然に行うためには、一般化された条件をダイアグラムに基づいて十分な形で記述しておくことが必要である。 また、このダイアグラムをもとに推論を考えると、副詞消去推論はDavidsonが述べているような形で行われているのではなく、単なる三段論法として処理できることがわかる。つまり、行為文や行為を含む因果言明の分析には、Davidsonのようにeventの存在を想定する必要はなく、出来事存在論のかかえる多くの問題は解消するということである。結論として、行為文は名詞化という言語上の操作を通じてis-aとis-a-cause-ofという推移的な関係で結ばれているだけであり、副詞消去推論はこの二つの関係を含む三段論法によって構成されているということである。
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