本研究は、西洋哲学における伝統的な「存在」esseの意味を、単に古代および中世の形而上学的視点のみならず、現代の認知科学的アプローチ(林)並びに近現代哲学からのアプローチ(山本)によって、多角的に検討しようとするものである。今年度の研究実績は以下の通りである。 (1)西洋哲学における中世から近現代の原典資料(今年度は特に、エックハルト、ショーペンハウアー、ハイデガー)を読解しながら、「存在」esse並びにそれと密接に連関する「もの」resさらには「無」nihilに関する重要な用法のデータベースを更新した。 (2)そしてそれらの文献の分析・解釈をすると共に、現代の認知論的観点ならびに現象学的存在論の観点から、再検討を試みた。特に、存在の一義性・統一性の問題に関して、現代現象学の領域でハイデガーが提唱する「時間からする存在の意味的統一性」という観点を新たな分析の知見として獲得し、本研究の深化をはかった。また、トマス・アクィナスの影響を受けながら自らの神秘主義思想を発展させたエックハルトにおける無の思想、そして近現代においてそれを受容したショーペンハウアーの無の思想、これらを世界創造における存在との連関で解明することによって、本研究の視野拡大をはかった。 (3)以上の研究を踏まえ、近現代哲学からのアプローチとして、「存在」esseに連関する「無」nihilに関わる論文、そして「存在」esseと「もの」resに関わる「現実性」actualitasに関する論文(以上、山本)、および認知科学的アプローチからの論文(林)を執筆発表した。 (4)本年度は研究最終年度として研究報告書を作成・印刷した。
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