北宋以来の程学の展開として、南宋の乾道・淳熙年間頃に、南宋境域各地で朱熹、呂祖謙、陸氏兄弟、胡氏湖南学、事功の学等の各士大夫思想が鼎立し、交渉しあう。それぞれの学の受容者、門人層の人々の交流にも注意しつつ、地域の視点をも取り入れて、南宋中期における士大夫思想交渉の現場の復元を試みるというのが、本研究の目的である。 本年度の研究遂行状況は、以下の通りである。 1、準備作業として、本学広島大学にはセットとしては備わっていない『四庫全書』をCD-ROM版(写真版)で求め、大容量ハードディスクを据え付け、各士大夫思想の中心思想家、及びその学の受容者、門人の別集の主なものを容易に検出できるようにした。 2、これを踏まえて、内面を語る書簡等の資料が残る各学派門人、関係者の資料を抽出、整理する作業を進めている。 3、南宋境域各地で各士大夫思想が鼎立するに至る前提をまず確認すべく、北宋末以来の程学の展開を、地域の問題に絡めて、二段階に分けて検討しつつある。 (1)皇帝や中央高官レベルの人々の心の修養の学としても語られていた程学が、北宋新法末旧法党政権争いの中で、高官としてではなく地方逼塞を余儀なくされる士人の心の学としても機能しつつ南宋に引き継がれるという様相を、二程初伝門人高弟に焦点をあわせることにより検討した。「上」は発表済。「下」は次年度発表予定。 (2)南宋境域の各地域性と各士大夫思想中心思想家の分布とが、南宋初から半ばへの社会状勢の展開として一面で連動した現象であることを検討中。次年度発表予定。 次年度は、上記2に依拠しつつ、各士大夫思想中心思想家の思想の受容者、門人層の思想受容に関わる諸問題の検討を進める予定である。
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