本研究は、絶対君主の儒教国家において彗星と流星の「予言」が政治や社会を動かす力となっていたことを解明し、漢代思想史研究に新分野を切り開こうとするものである。平成12年度は以下の研究を実施した。 1.昨年度に引き続き、『史記』・『漢書』・『後漢書』・『三國志』・『晉書』の彗星・孛・流星の記録をすべてコンピューターに入力して整理し、それと並行してインターネットで台湾中央研究院の検索機能を活用して彗星・流星のデータ整理と確認作業をした(消耗品費・研究補助謝金)。 2.これらの記録を整理してみると、彗星・流星の観測記録を具体的な政治と結び付けて「予占」になるのは、特に『後漢書』から顕著であることが判明し、当初の予測が正しかったことを裏付けた。 3.中国古代科学史研究に取り組んでおられる東京大学教授・川原秀城氏を訪問し、本研究についてご教示をいただくとともに、貴重な資料の提供を賜った(国内旅費)。 4.以上の研究から、主観を排する科学的天文学が人間社会を予測し予断することができると考えたのはなぜか、いかなる社会的理由で天文学が「予言」化したのか、どのような経緯で「予言」化に至ったのかという問題-董仲舒の災異説が予占化して行く前漢末期から天文学が太古の占星術の精神を継承して社会・政治批判の武器として機能するに至ったことを論証できる見通しが立った。 5.ハーバード大学ハーバード燕京研究所所長・杜維明教授、元ハーバード大学教授・現プリンストン大学東洋学科教授の余英時教授はアメリカ合衆国における中国研究者の中心であるのみならず、研究成果を社会に積極的に還元していることでも有名である。両氏を訪問してレビューを受け、儒教社会で「予言」がどのように国家の政治に機能していたかを解明することは今日の社会にも非常に有意義であるとの賛同を得、本研究成果を社会に還元する具体的方法に関しても教示いただいた(外国旅費)。
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