本研究は、楊度(1874〜1932)の思想的変遷を解明し、所謂思想的「変節」や「転向」が個人において如何なる事態を引き起こすことになるのか、そのようにして得られる実践的「正義」が、個人的にも、社会的にも、如何なる意義を持ち得るのかという視点に立って、対話や合意によって共通の実践的価値である文脈的正義を獲得するという今日の哲学思想状況における最前線の課題に取り組むことを目的とした。 先ず、対語や合意の場面における感情の役割や機能をめぐって、意思決定におけるそのコミットメント機能を明らかにし、論文「ディベート論」の中に提示した。又、その具体的特殊的展開として、司法の場における感情のコミットメント機能については、廈門における2001年中国法律史学会で「司法と感情」という口頭報告を行い、明らかにした。 我々の意思決定は、常に不確定な事態の中で為されるし、そのような事態の中での意思決定を評価する基準を如何に求めてゆくのかというテーマはすぐれて今日的課題でもある。従って、自分自身と国家との間で葛藤を続けた楊度の人生のそれぞれの時点でなされた彼自身の意思決定の評価は、後知惠でしかない。 しかし、本研究において、楊度が変わることを畏れなかったことを、私は評価した。楊度の思想的変遷を解明することを通じて、対話や合意によって共通の実践的価値である文脈的正義を獲得するということは、正に「変化を畏れない」ということであることが明らかになったと、私は考えている。 今後、楊度の思想遍歴に関しての具体的研究内容については論文等の形で発表してゆく予定であるし、不確定な事態の中で為される意思決定を如何に評価するかの基準についても、追求してゆくつもりである。
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