研究概要 |
1.措定した意味に対応した言語項目の抽象にパーニニ文法家がとった方法は,<肯定的共在関係>(anvaya)と<否定的共在関係>(vyatireka)に基づく推理であった.この推理は,言語項目とその意味の理解の間に因果関係を発見するのに資する。バルトリハリの<能力>論こそは,この言語分析の方法論から導かれたものである。 2.因果論的アスペクトから,カーラカ理論においては,単一のモノ・コトとしての<実体>が多様な<行為>の実現に参与し,多様な表現が成立するという事実が,モノ・コトとしての<実体>に<属性>たる<能力>を措定せしめた.そしてこのことは,次のようなテーゼを生む. 「単一のものがその<能力>によって多様に現れる」 実在としての文からの下位の言語単位の概念的設定も,実在としての意味の融合体からの構成的意味の概念的設定も,言葉の<自己指示>理論も,さらには形而上学もこれによって説明される. 3.<能力>は,<扶助>を本質として,モノ・コトとしての<実体>に相関してはそれから区別され,形而上学のレベルで究極的<実体>に相関してはそれから区別されず,非実在である.同じ所与の言語運用が様々に見られ,様々に概念化され,様々に説明されるのと同様に,存在論的<実体>であるコトバ原理もまた様々に見られ,様々に概念化されるのである.あたかも同一対象を筒を通じて様々な角度から見,そして語るように. 4.かくして,バルトリハリにおいて,言語運用の観察から帰納されたその言語哲学思想の核心は,究極的<実体>を多様な<能力>の担い手として捉え,それを多様な言語活動の源泉として把握するその<能力>論である.
|