13世紀のHemacandra作Parisistaparvanは多くの説話を含んでいるが、本書の全訳を行い、出現する語を全てカード化し、対応する英語および日本語訳を与えた。これを基準としてジャナイ教注釈文献を時代的に遡り、説話の変遷を様々な視点からあとづけるべく、基本的資料を作成した。 また、6世紀のSamantabhadraによるRatnakarandkasravakacaraはジャイナ教在家者が守るべき規則を述べる中で教義の解説を行っているが、その中で人物のみに言及している箇所がある。そのような箇所に対するAbhayadevaの注釈を解読した。またサマンタバドラが言及する人物と同一と思われる人物が現れる「原始聖典」および注釈文献を渉猟し、説話の異同を検討した。その結果、「原始聖典」の権威を否定する空衣派にあっても、「原始聖典」およびその注釈に現れる説話とほぼ同一の筋書きと登場人物を有するものを採用していることが明らかになった。これによりジャイナ教の二大分派である白衣・空衣両派の対立点は説話文学に関して存在しないという予測が可能になった。 またヒンドゥー教や佛教に伝承される説話に関する基本的な資料も本研究の過程で収集することができた。これによってインド文化全体におけるジャイナ教の説話がしめる位置を明確にする研究の基礎を構築した。
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