本研究は、世紀転換期を迎え、近代宗教学・宗教社会学の見直しの声が国際的に高まる今日の状況下で、前世紀末のドイツおよび日本における宗教状況と宗教研究の相関を解明するとともに、そこから宗教研究のアクチュアルな課題への示唆を得ることを目的とするものであった。 本年度は、昨年度に続き、ドイツおよび日本における19世紀末から今世紀初頭にかけての宗教状況の解明のもととなる宗教資料および同時代宗教論の収集に努めるとともに、これに基づき、ドイツおよび日本における近代の宗教状況と宗教研究との有機的関連を跡づけ、各々の地域における宗教研究の文化的機能を検証するための分析を進めた。具体的な成果としては、まず日本の宗教学の祖である姉崎正治における宗教学の生成を、近代性および同時代の宗教状況との関連で詳しく跡づけ、日本宗教学の文化的機能を解明する作業を行った。当初の予想に反し、姉崎ら草創期の日本宗教学者と日本近代の社会・政治・宗教状況との関連は、非常に複雑かつ多面的であり、安易な図式におさまるものでは全くないことが確認された。その成果の一部は、2000年8月に南アで行われた国際宗教史学会において発表した。また本課題で得られた姉崎研究の成果は、共著として200l年秋刊行の共編著の一部ともなる予定である。一方ドイツを対象とした研究としては、宗教社会学のこれも祖というべきゲオルク・ジンメルの宗教学説を詳しく検討し、とくにその心理主義的側面と近代性との関わりを論文としてまとめた。ジンメルにおいても、近代性一般と同時代の宗教状況へのアンビヴァレントな関わりの中でその社会学と生の哲学の形成がなされたことが確認された。日独比較については、姉崎研究の一部をなしているが、詳しい全体的な比較検討は、なおこれからの課題ということになるであろう。
|