本年度は、調査地マニの系譜資料と親族構造に関するデータ3000項目を中央演算処理装置によって分析する作業と駆け落ち婚に関して蒐集した300の有意味写真版データを、言語分析プログラム(Corpus wizard Ver.1.06Ffor Win32)を使用して分析した。 具体的には、前者については、擬制的親子関係の選択の場面でどのような要因がどの程度働くのか、を中心に分析をすすめ、後者については、駆け落ち婚に対する具体的な思考を取り出すことを行った。 理念的には、死後の天国での神聖な親子関係とされている擬制的親子関係には、その選択が家族関係を固める方向に働くのか、あるいは社会経済的に下層に位置しているカトリックがその社会的地位の上昇を目的としたものか、が問題となる。マニにおいては、洗礼の場面では父方の祖父母が69%の割合が選択されているが、婚姻に関しては親族が選択されることはない。土地所有、家の建築方法、家財の所有状況、祭壇の様態、第三者による評価を項目とした社会経済的地位の分析にもとづいて、擬制的親の選択を考察すると、経済的に優位にある者を選択している割合は、洗礼29%、堅信34%、婚姻37%であった。 駆け落ち婚に関する有意味写真と文章への反応から取り出した具体的な思考の概要は次のようである。屋敷への入り口での若い男女の語らいの場面が、駆け落ちへの契機ととらえられ、親は、そうした機会に対して緊張をもって対応する。さらに、そうした警戒や注意は、親の義務であり、権利とされている。また、親が子どもを叩いて育てることは肯定的にとらえられ、叩く理由として最も多いのは、親への不従順と強情である。さらに、駆け落ちという手段に対するマニの人々の評価は、文章への反応にもとづくと、後悔と罪深さを中心としている。
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