平成11年度から12年度にかけて行われた本研究は、現代社会におけるモラルの状況と電子ネットワーク内のモラルの生成の現場とをつきあわせ、そこから電子ネットワークの今後のモラルの構造を分析することに主な狙いがあった。この目的は、2年間の研究によりほぼ達成されたと言うことができる。 研究代表者は、これらの目的を、「情報モラル」の教育という場面で考察した。近年わが国においてはコンピュータ・エシックス的な問題は、教育に関わる議論の中で登場することが常だからであり、また学校の情報倫理教育(ここでは、最近、「情報モラル」という言葉が使用されている)が模索されてきたからである。現在、全国の中等教育の現場で、情報モラル教育のプログラム化が進められているが、ここには本研究と密接に関わる諸課題が山積している。そうした状況下で具体的に進められた2年間の成果は、諸外国の研究者ともに、ダートマス大学(アメリカ)で開催されたCEPE2000("Information Ethics and Humanity"のタイトルで発表)や広島で開催されたFINE2001(「情報倫理の教育」をめぐる国際フォーラム)で報告された("How computer ethics can contribute to children"のタイトルで発表)。これらの国際会議では、コンピュータ・エシックスにおけるモラルが、伝統的倫理学の知見を必要としていること、そして現段階においては、モラルの原理的研究以上に、モラルの教育的研究がきわめて重要であること、などが各国共通の課題として明らかにされ、今後の情報倫理教育に大きな方向付けを与えるものとなった。このように本研究は、きわめて実り多い成果をもたらしたと考えられる。
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