本年度は、「ナショナリズムと近世儒教-「自国意識」をめぐる日朝比較思想史」研究の最終年度であり、本研究のまとめとして、「「江戸」の自国意識-山崎闇斎学派とナショナリズム』(『日本思想史研究会会報』20)をまとめた。儒教に特化することなく、自国意識の発生に関わる言説編制が、江戸の中期以降に様々な思想に広く見られることを指摘し、その中で、自国意識とナショナリズムとの連関について考察してきた。理論的な背景としては、アンダーソンやゲルナーを用い、江戸のナショナリズムの発生を見る、アントニー・スミス的な理論との相違を明らかにしてきた。 また、『江戸儒教と近代の「知」』(ぺりかん社)の書評を『日本学報』21にまとめた。儒教とナショナリズムとの関係を考える上でも重要な先行研究であり、そこでも、江戸と近代とをどうのように連関させ、またどこで切断するのかをめぐって、議論を行った。 幕末、あるいは明治にいかにして儒教的な言語が、ナショナルな言語として立ち上げられてくるのかは、今後の検討課題であり、また、江戸中期の自国意識と国学との比較も、今後の検討課題である。
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