本年度は、研究代表者のこれまでの科学研究費補助金による研究を総括するために、「宣長の外部--十八世紀日本の自他認識」「華夷思想の解体と自他認識の変容--十八世君末〜十九世紀初頭期を中心に」の二本の論文を十二月に公刊した。また、研究代表者が主催する華夷思想研究会を合計4回開催し、研究代表者を含めた日本在住、および中国北京日本学研究センターの研究者から以下のような報告が行われ、徳川日本における華夷思想(対外観)に関する多様な論点について理解が深められた。5月19日「石器のもたらす『夷』の烙印--古物趣味と文化起源論」「宮崎滔天のアジア主義問題設定と先行研究の整理を中心に」、7月26日「室町幕府の華夷思想--満済の場合」「明治維新期の朝鮮政策--対外理念を中心に」、9月28日「東洋の構築--田辺尚雄の音楽論考」「室町期准后宣下と足利将軍」、12月1日「宣長の『外部』と18世紀末〜19世紀初頭期の自他認識の変容」「朝鮮時代研究史と朝鮮儒学史」。また、8月17日から20日にかけては、韓国精神文化研究院で開催された日韓宗教研究フォーラムで報告し、日韓の対外視について研鑚を深め、相互の議論を行った。さらに12月8日に開催された神道宗教学会で、宣長の対外観に関する報告を行った。これらと並行して、蝦夷地関係の史料の収集、及び最近の対外観についての研究書等、史料・書籍の蒐集を行った。また、これまでに蒐集された史料、研究書の整理と分析を進め、それをほぽ完了した。これらの研究活動を通じて、本年度で終了する本研究のまとめとして、来年度研究代表者を編者とする『華夷思想の変容と転回』を刊行する準備もほぼ完了した。今後は、東アジア民衆の対外観の研究が課題となるだろう。
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